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執筆者の写真Waseda ICC

地球を飛びだし、宇宙で育む異文化コミュニケーション力

はじめに

「グローバル人材」とは近頃あらゆる場面で耳にする言葉ですが、どのような資質を持つ人のことなのでしょうか?様々な解釈が飛び交う中、文部科学省はこのように定義しています。


「世界的な競争と共生が進む現代社会において、日本人としてのアイデンティティを持ちながら、 1)広い視野に立って培われる教養と専門性 2)異なる言語、文化、価値を乗り越えて関係を構築するためのコミュニケーション能力 3)協調性 4)新しい価値を創造する能力 5)次世代までも視野に入れた社会貢献の意識 などを持った人間」


2)の「コミュニケーション能力」と聞くと、英語や他の外国語を話せる能力を一般的に想像されるかもしれませんが、言語能力のほかに、文化と価値の差を認識し、乗り越えるための能力も必要不可欠となります。近年「異文化コミュニケーション力」などと良く言われていますね。


世界で通用する異文化コミュニケーション力の向上は、早稲田大学でも非常に力を入れています。大隈重信の「一国の為のみならず。進んで世界に貢献する抱負」という意を受け継ぎ、人としての尊厳と多様な価値観や生き方への尊重を通して、世界に貢献する学生の育成に取り組んできました。これら長年の努力を経て、現在、本学は日本で最多の留学生を受け入れる大学として学内での異文化交流も非常に盛んであり、私たち学生にとっても誇らしい環境です。


主に教育機関や企業などの場で発揮が期待される異文化コミュニケーション力ですが、予想外な場所で重視されていることを最近知りました。なんとそこは、地球を飛びだし、ほとんどの人が生涯行くことがないであろう「宇宙」です。未知な世界でありながら、多くの人が一度は行ってみたいと憧れる領域でもあると思います。では、実際に宇宙でどのように異文化コミュニケーションが育まれているのか、深堀りしていきたいと思います。


国際宇宙ステーションでの異文化コミュニケーション

宇宙開発と異文化コミュニケーション。一見関連なさそうですが、実は深く結びついています。宇宙開発と一言で言っても多くの職種がありますが、中でも一番注目を浴びる「宇宙飛行士」に求められる異文化コミュニケーション力にフォーカスを当てていきましょう。


宇宙飛行士は主に「国際宇宙ステーション」を拠点として活動しています。国際宇宙ステーション(ISS)は地球から遥か400kmも離れた上空に位置し、「国境のない施設」として宇宙環境でしかできない様々な研究や実験が行われてきました。日本、アメリカ、カナダ、ロシア、ヨーロッパ各国をはじめとする計15か国により運営されており、それぞれ自国で開発したISSの装置を責任持って機能させています。また、各国にはISSの運用を担う国立機関が設けられており、中でもアメリカのNASA、日本の宇宙航空開発機構(JAXA)はほとんどの人が耳にしたことがあると思います。JAXAは主に物資輸送やISS最大の実験棟である「きぼう」の運用などを務めています。一方で米国のNASAは各国と連携をとりながら調整するリーダー的存在であり、さらにISSへの電力供給を確保する役も担っています。


こうして各国がそれぞれの任務を果たしながら長年宇宙開発を進歩させてきたISSですが、今までにない形の国際協力の象徴の場でもあります。


宇宙飛行士として求められる素質

宇宙開発の場は共通の専門分野を持つ研究者が集まる一方で、個人の文化的背景が大きく異なるため、多様性に富む人材で成り立っています。よって、宇宙での研究は科学に留まる活動だけでなく、異文化交流のあり方を追求する上でも重要な役目を果たしていると言えます。


例えば、ISSに搭乗する宇宙飛行士になるための応募条件として「心理学的特性」という項目が含まれています。これは、協調性、適応性、情緒安定性などをはじめとする、国際的なチームの一員として業務に従事する上での適性として選考において重要視されている特性です。先ほど触れたグローバル人材に求められる資質と重複していますね。ISSで研究や実験をする宇宙飛行士は成果を出すことがもちろん最優先ですが、限られた滞在期間(約半年間)の中、効率的に仕事を進めるためには、異文化コミュニケーションを基盤としたチームワークを構築することが絶対条件となります。


日本人で初めてISSのクルーとして選ばれた宇宙飛行士、若田光一さんは有名です。合計4度もの宇宙飛行を経験し、日本人として最長の宇宙滞在期間を記録しただけでなく、2014年にはISSのコマンダー(船長)として任命されました。常に危険と隣り合わせの環境で仕事をするという緊張感高まる環境で求められる資質は、リーダーシップだけではなく、多国籍チームにおいて、個人の「違い」を尊重した高度なコミュニケーション力の発揮も必要とされました。


若田さんが船長として常に意識していたことは、「問い返し」を習慣化させることでした。クルー同士で意思疎通をするにあたって自分の意見を相手に正確に理解してもらうためにも、逆に相手の発言に対する自身の見解を共有することで曖昧な意思の伝達を防ぐためにも有効です。特に命がけで行う宇宙開発の現場ではミスやトラブルが許されず、誤解無くコミュニケーションを円滑化することが求められるので効果的だったそうです。このような細かな「配慮」の積み重ねを通して誰もが話し合いに参加できる環境づくりが最も大切だと言います。そして、こういった気遣いは私たちが普段の生活において異文化交流をする際にも意識できることの1つですね!


そんな若田さんはISSのコマンダーという誰もが思う超エリート職について、一般的なビジネスの場における「課長」のような存在に過ぎないと言います。宇宙開発という共通の目的の下活動する一つの組織のリーダーを担うことは、ビジネス界における一般企業の中間管理職として部下をまとめることと本質的には変わらないと言います。確かに全ての仕事においてリスクはつきものである上、リーダーに価値観やバックグラウンドの異なる人同士のコミュニケーションを促進する能力が求められることにも変わりはありませんね。日本、いや、全人類を代表してISSで宇宙開発の重役を担った偉人からの言葉には聞こえませんが、こういった謙虚な姿勢もまた、他の誰でもなく、若田さんがリーダーとしてふさわしいという証ではないでしょうか。


最後に

長々と語ってしまいましたが、宇宙での異文化コミュニケーション力の重要性を感じていただけたでしょうか?


宇宙から帰還した若田さんのような宇宙飛行士がダイバーシティマネジメントの研修を行ったり、企業がグローバルリーダー研修を立ち上げるにあたり宇宙飛行士の経験や彼らに求められる資質を参考にしたりと、宇宙開発の成果は様々な場面で応用されています。宇宙に留まらず、文化を超えたコミュニケーション能力が求められる環境は他にもたくさん潜んでいるのではないでしょうか。実際に私自身が思いもしなかった「宇宙」という場所に潜む異文化理解のあり方に目をむけたことで、多くの学びを得ることができました。このブログを最後まで読んでくださった皆さんも、あらゆる場面における異文化コミュニケーションを探究してみてください!


S.Y. (Student Staff Leader)

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